北欧へ急に行くことが決まったのは5月の中ごろだった。現地の言葉で話せば親近感が増すだろうとインターネットで勉強を始めたが、フィンランド語は手強(てごわ)かった。意味不明のカタカナが並んでいるようにしか見えないのだ。
▲テンペリアウキオ教会
最初、なんとか分かったのは“モイとキートス”の二つだけだった。英語のハローに近いのがモイ。キートスはとても便利な言葉で「ありがとう」の他、いろいろな単語に付け加えると「~をください」という使い方もできる。たとえば「白ワインをください」だったら「ヴァルコヴィーニア、キートス」と言えば良いのだ。まあこの二つくらい知っていればなんとかなるだろうと思った。しかし、昨年のニーハオとシェーシェーだけの中国訪問は大失敗で、考えの甘さを思い知らされていた。また同じ過(あやま)ちを繰り返してはならないのだ。
6月の中ごろ、フィンランドへ向かうフィンエアー機内で客室乗務員にワインを頼んだ、もちろんフィンランド語で。彼はにっこりして「シロワインデスネ~」と日本語で答えてくれた。やや拍子抜けしたのだが、とにかく通じた。嬉しかった。
▲とても楽しみしていた”パブトラム” 生ビール付き路面電車
気を良くした私は、バルト海に面した美しいヘルシンキの町をあてもなく一人で散策したり、路面電車に乗ってテンペリアウキオ教会(別名ロックチャーチ)やシベリウス公園のような観光名所を訪ねたりした。また、食事や買い物に訪れた店でも片言(かたこと)のフィンランド語を試してみた。するとみんなニコッとしてくれるのだが、答えはなぜか英語で返ってくるのである。嬉しいような悔しいような変な気持ちになった。だが、それはけっして相手を軽んじての態度ではない。語学力に合わせて応対しているだけで、フィンランド人特有の思いやりの一つなのだと後で気づいた。
帰国する前日、市内のサウナ(実はサウナもフィンランド語)に一人で入った。そこでも年配の男性に話しかけてみた。英語が苦手だと言ったので、フィンランド語で「娘がフィンランド人と結婚して○○に住んでいる」と言うと、彼はとても喜び「キートス」と言ってくれた。心も温かくなった。
H30.10月「陽だまり語録」123
0コメント