9月の初旬、北京に住む長女と万里の長城へ行った。私達が訪れた長城は北京の北方、約70kmの位置にある。観光バスで行けば約1時間半ほどで行けるのだが、料金の安い路線バスを利用することにした。当然予約ができない。そこで早起きして出発の1時間以上も前から並んだ。
バスの車内はかなり窮屈だった。その上、座席がタイヤの真上だったので、膝を折り曲げて座らなければならない。予想通り出発時には、ほぼ満員状態。しかもバス停で停車するたびにどんどん乗客が増えてくる。そのたび、体格のいい女性車掌が 何かを大声で叫んだ。運転手は、クラクションを常に鳴らしながらかなりのスピードで飛ばす。すし詰めの車内、むっとする体臭、“運動会座り”、車掌は叫び、クラクションが鳴り詰める――このような濃厚な時間を過ごしながら北京郊外に出て、やっと乗客が減り始めた。まあ観光バスの3分の1の料金で2倍も長い時間乗れるのだから“得”といえばそうかもしれないが、「慕田峪長城(ぼでんよくちようじよう)」の登り口に着いたときには、さすがにほっとした。
この長城は、有名な「八達嶺長城(はつたつれいちようじよう)」に比べると余り混んでおらず、世界遺産の威容をたっぷりと味わいながら歩くことができる。どこまでも青く透き通った空の下、私達は素晴らしい時間を過ごすことができた。
さて、帰路も同じバスである。したがって随分早くからバス停で待った。そのうちに乗客らしき人が増え、あちこちの日陰で腰を下ろしている。バスが着たら並ぶのだろうと私は思っていた。
ところが、お目当てのバスが近づいてくると、なんということか、今まで日陰にいた人々が一斉にバスの乗車口に殺到したのだ。
「おい、おい、待てよ」などと言う暇はない。ここでは力技しか通用しないのである。私は娘をかばいながらその群れに突入した。そして必死の思いでバスに乗り込み、二人分の席を確保した。やがてバスが動き始め、「これで良かったのかな?日ごろ言っていることと違うじゃないか」と反省した。車窓から見上げた空には、すでに秋の気配が漂っていた。
H25.12 陽だまり語録 64
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