ノーサイド

 相手チームのゴールキックはゴールポストを僅かに外れ、楕円のボールが地面で跳ねた。ノーサイドの笛が鳴り響き、歓喜と落胆の入り交じった大声援がスタジアムを包み込んだ。母校の「花園」初出場が決まった瞬間であった。

▲2020年11月14日付 毎日新聞朝刊より 

 もしゴールが決まれば同点。両校優勝となり、抽選で出場校が決定するのだ。両手を天に突き上げ、選手達は勝利の喜びを爆発させていた。こどもおぢばがえりの常連でやんちゃだったM君もその中にいた。歓喜に沸き返るスタンドでは、監督を始め、生徒・職員や保護者、コーチ(天理教校学園付属高校OBのM君もいる)の方々が県大会優勝の喜びを分かち合っていた。

 毎年、年末から正月かけて東大阪市の花園ラグビー場で開催される全国高校ラグビー大会は「花園大会」の愛称で親しまれ、ラグビーを愛する高校生達にとって、高校球児の甲子園と同じような憧れの舞台である。

 ここで、歴史に残る数多くの名勝負が演じられてきた。1984年「天理対大分舞鶴」の決勝戦もその一つである。18-12の天理リードで迎えた試合終了間際、大分が執念のトライを奪い、ゴールキックが決まれば同点、両校優勝の場面だった。大分舞鶴のキャプテンが蹴ったボールは惜しくも外れ、天理の優勝が決まった。この試合をモデルにして松任谷由実の名曲「ノーサイド」が生まれ、ラグビーファンのみならず多くの人々に愛されている。

 この試合から30年後、40代後半になった両校のOB達が集まり花園での再試合が実現した。試合の模様はNHKテレビで放送され、大分舞鶴が雪辱を果たしたが、前日には天理市内で歓迎会が開かれ、青春時代の健闘を讃え合った。

 ノーサイドとはラグビーの試合終了を指す。試合終了と共に敵味方の陣地がなくなり、お互いのプレイを讃え合う精神に基づく言葉である。『勝って驕らず、負けて腐らず』の言葉通り、試合後の生き方が本当の値打ちを物語る。プレイのレベルと舞台は違うが、奇しくも同じ状況でゴールキックを外し、がっくりと膝をついた選手のもとへ仲間達が駈け寄り肩を抱いていた。

「ノーサイド」の歌が聞こえてきたような気がした。

H29.2月号 陽だまり語録 102

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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