その人出直しは鮮やかだった。闘病中、実行委員長を務めていた大きな行事の成功を見届け、重要なポストの後継を信頼できる方に託した。お世話になった人々や愛する家族、親戚、部内教会長さんたち、信者さんたち、病院の医師や医療スタッフ、あらゆる人たちに感謝とお礼の言葉を伝えた。そして、大勢の方々に見守られ、そう、まさにみかぐらうたの「でなおし」のおてふりのように勇んで旅立たれたのである。
▲Honoluluのホテルで海外部長だったT先生と
T先生は、私が中学生の頃からだから、もう40年以上もお世話になった恩人である。昨年の11月、友人から入院の知らせを受け、驚いて病院に伺った時、意外なことをおっしゃった。「医者からは、長くて半年と言われたけど、この病気になってありがたいと思っている」
見舞い人を気遣って気丈に振舞っておられるのだろうと、私は思った。しかし、先生は次のように続けられた。
「半年しかじゃなくて、半年もある。これが事故や突然の病気で出直したら悔いが残るじゃろう。でも残りの命が分かっとったら、その間にお世話になった人たちに感謝やお礼の言葉を言うことができるし、仕事の引き継ぎもきちんとできるからむしろありがたいと思っている」
「先生、お気持ちは分かりますけど、そんなに急がなくてもいいでしょう」とお答えし、おさづけを取り次がせていただいた。それからいろいろな思い出話をしているうち、ふと「うちの娘に先生のお嬢さんと同じ名前を付けさせていただきましたよね」と言ったところ、「後悔したじゃろう?」とニコニコして聞かれたので「はあ、ちょっとだけ」とお答えして、二人で大笑いした。
▲Honoluluで帰国直前に
若くしてご両親を亡くされ、外国航路の船乗りになりたいという夢をあきらめて19歳から会長になられた先生…われわれ「お道」の人間には“ご冥福を祈ります”という言葉は不自然ですよね。だから、今度生まれ変わってこられたら、大きな船に乗って、広い宇宙を飛び回ってください。そして、その時には生まれ変わった私も、きっと連れて行って下さい。でも、まだずっと先でいいですよ、T先生。
H24.3月号 陽だまり語録 44
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