しじみ汁

 友人のお宅からたくさんのしじみをいただいた。有名な「宍道湖のしじみ」である。

早速、薄い塩水で砂抜きをした後、味噌汁にしていただいたが、たっぷり旨味が溶け出した汁はもちろんのこと、身も肉厚でおいしかった。

 こんなおいしいものを独り占めしてはもったいないので、親しいお宅に何軒かおすそ分けした後、残りを小分けして冷凍庫に保存した。こうすると半年以上もおいしく食べられるのである。

 しじみは古くから肝臓の妙薬と言われ、酒好きの“左党”には大変うれしい友である。なんでもオルニチン、タウリン、ビタミンB12とかいう成分が肝機能回復に効力があるらしく、詳しいことは分からないが、名前を聞いただけでも頼もしくなる。

 年配の方に伺うと「この辺りにも昔はたくさんいたよ」と言われるように、淡水に住むマシジミが日本各地に広く生息していた。しかし、外来しじみの侵入や河川の環境悪化が進むにつれて急激に減少していったのである。現在私たちの口に入るのは海水と淡水が混じる汽水域にいる大和しじみがほとんどだが、美味で有名なセタシジミは琵琶湖固有の淡水しじみである。 

 さて、しじみ汁に入っている“しじみの身”を皆さんはいただきますか?

 私はこれまで躊躇なく身まで食していた。ところが、正式な席や料亭などでは、身まで食べるのはマナー違反なのだそうである。「それなら最初から入れるなよ」と文句の一つも言いたくなるが、美しくいただくための作法なのだから仕方ない。ただ、それぞれの家庭でいただくには何の問題もない。むしろ、しじみの身には体のバランスを保つのに大切なミネラルがたくさん含まれているので、食べた方が体には良いとさえ思うのだ。

 こうして考えてみると、汁の中に自らの旨味を溶け出し、残った身には出しがらとしての評価しか与えてもらえない。にもかかわらず、目立たない所にも重要な働きを持つしじみは、実は素晴らしい存在なのかもしれない。

「ああ、しじみのような人に、私はなりたい」とか思いながら、しじみの汁をしみじみと味わった。

H25.3月号 陽だまり語録 55

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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