浜風と球音

 この夏、甲子園球場へ高校野球の応援に行った。三塁側アルプススタンドの入場ゲートをくぐり狭い階段を登ると、視界がサアっと開けて眼下にスタジアムの全貌が広がった。私はこの瞬間が大好きだ。

「浜風」が吹いていればもっと良い。が、ベスト8が戦うこの日はあいにくの曇り空、センターポールの旗はホームに向かってはためいていた。席を取りスコアボードを見ると、先発選手の左端に甥の名前がちゃんとある。思わず携帯で写真を何枚も撮り、ちょっと恥ずかしくなった。2年連続で出場した選抜大会ではいずれもその大会の優勝校に初戦で負けていたし、応援にも行けなかったので、やっと叶った機会にやや興奮気味だったのである。

 やがてキンという球音が響き、割れるような歓声が上がった。球児たちの一投一打、きびきびとしたプレイに声をからして声援を送っていると、いつしか青空が表れ、浜風がライトスタンドの方から吹いて来た。

 ふと、2年前の秋を思い出した。翌年の選抜大会出場に大きな影響を与える秋季地区大会で、1年生ながら正選手として出場していた甥は、試合中に大怪我をして救急車で病院に運ばれ、試合に出場するどころか選手生命さえも危ぶまれた時があったのだ。それから大勢の方々に支えていただき、こうして春夏合わせて3回も出場できたのだから「勝ち負けなんかどうでもいい」と言いたいところだが、やっぱり1度くらいは勝って欲しいと願っていた。ところが初戦の相手は今年の春の選抜準優勝校、またしても優勝候補だった。

「またか、くじ運が悪いなあ」という嘆息も聞こえてきたが、試合はしびれるような熱戦を展開し、2対2で迎えた延長12回の裏、内野ゴロの間に甥が3塁から劇的なホームインをして初戦を制した。チームはその勢いに乗りベスト4まで勝ち進んだものの、またもや優勝したN大三高に敗れてしまった。ただ、試合後に甥から届いたメールには「楽しかったです」と記してあった。

「“感謝、楽しみ、たすけ合い”の精神で頑張れ」との応援メールに、きちんと応えてくれていたのかもしれない。

H23.11月号 陽だまり語録 39

▲M大野球部選手だったころの甥っ子

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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