ビエンナール内視鏡

 吾輩はビエンである。外国人ではない。漢字では「鼻炎」ーー持病をペンネームにしている風変わりな日本人である。その私のところへ、今年も市から健康診査の受診券が届いた。

▲おいしそう!

 友人の中には検診の2、3日前から辛い物や揚げ物を控えたり、禁酒をしたりして体調を整えているという人がいるが、「普段からそうすればいいのに」とつい忠告したくなる。

 さて、いつもなら胃がん検診は、ゲップが出そうになる薬と白いドロドロした液体を飲んで受けるエックス線検診である。実は過去に2度、この検診の後で病院から「胃がんの疑いあり。要精密検査」とのありがたい速達をいただいたことがある。2回とも上部消化管内視鏡(胃カメラ)検診の結果、「異常なし」と言われて胸をなでおろしたが、あまり愉快ではなかった。

 ところが今年から、2年に一度「エックス線」と「内視鏡」のどちらかを最初から選択できるようになったのだ。その上「けいび(・・・)は楽ですよ」と医師が勧めた。経(けい)鼻(び)を軽微と勘違いした私は迷わずに「経鼻内視鏡」を選んだが、検診の説明資料を見ると、鼻から内視鏡を挿入する検診で、“鼻炎”が不安になった。

 検診当日、ベテランの看護師から説明を受け、胃の泡を消す白い液体の薬を飲んだ後、両方の鼻腔に鼻の通りを良くするという薬をシュシュっとしてもらった。それから数回に分けて鼻腔に麻酔をしてもらい、いよいよ医師のもとへと向かったのである。

 この検診の良いところは、部分麻酔なのでモニターに鮮明に映る自分の消化器官を見ながら医師と話せるところである。ただし医師が「オヤッ」とかつぶやいて内視鏡を止めるとたまらなく不安になる欠点もある。

 検診後、医師から「ほぼ異常ありませんよ」と嬉しい言葉を貰ったので安心した。だが、鼻がムズムズして鼻水とくしゃみが止まらず、しかも「麻酔が切れるまではあまり強く鼻をかまないでください」と注意され、とても辛かった。

 ビエンナーレは2年に一度開催される素敵な美術展覧会のことだが、ビエンナールは、私にとって2年に一度というだけでなく、鼻炎にもなる検診である。困ったもんだ。

H29.10月号 陽だまり語録 110

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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