かんしゃく餅

 “かんしゃく餅”という名前を聞いて美味しそうだと思う人は、まずレア(稀)である。しかし、どのお宅にもたいてい一つや二つは転がっており、意外にもひそかな愛好者が多いと聞く。

 とくに外面(そとづら)が良い人ほどその傾向が強く、家族に煙たがられているのにもかかわらずなかなかやめられないそうである。

「それって、もしかしてワタシのこと? はっきり言ってほしいな」とイライラし始めている人がいるとすれば、すでに“かんしゃく餅”をかじりかけている証拠ですよ。ご用心、ご用心。

 冗談はさておき、確かに、何かイライラして無性に腹が立つときがある。どうしてこんなに腹を立てているのだろうと冷静な自分が判断し、かんしゃくを抑えなければならないと警告を発しているのに、喋っている間にだんだんと感情がエスカレートしてコントロールできなくなるのである。その結果、家族や周囲の人に不愉快な思いをさせ、自分自身は後味の悪さと自己嫌悪に苛まれる。

「どうしたらいいですかね?」と、毎日“おたすけ”に通わせていただいている方から相談を受けた。「悪いなと思ったら、すぐに謝ればいいんですよ」と答えたものの、それができるようなら“かんしゃく餅愛好者”になっていない。どうしたらいいか考えているうちにある句を思い出し、メモ帳に書いてお渡した。

 それから教会に帰り、前会長である母に頼んで短冊にさらさらと墨書してもらった。翌日、「飾っておくだけじゃあだめですよ。必ず実行してくださいよ」と言いながら短冊を進呈した。「かんしゃくの くの字をとって 生きてゆく」これは京都府綾部町のご婦人が投句された川柳であるが、とても味わい深く、心にすっと入って誰もが「なるほどなあ」と納得できる句である。

 この素晴らしい句を少し変えることをお許しいただければ、次のように詠むことができる。「かんしゃくの くの字をとれば 苦もとれる」他人に変化を求めず、まず自らが実行してみよう。“かんしゃく餅”ではなく、“感謝の気持ち”が膨らんでくるはずだ。

H22.10月号 陽だまり語録 26

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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