巡見街道春景色

 庭のボウガシが枯れたので切り倒した。燃えるごみとして収集してもらうためには、指定された長さに切り分けなければならない。昔からよく言われる言葉だが、“鋸(のこぎり)で切ると木が切れずに息が切れる”のだ。

▲天理教笠岡大教会の春景色

 年じゃなあ…と、適当に休みながらスマホを見ていたら、偶然「巡見(じゅんけん)街道」を見つけた。かつて将軍が交代した時、幕府より派遣された「巡見使(じゅんけんし)」一行が通った道で、巡見街道あるいは巡見道として全国各地にその名残りをとどめている。

 巡見使には、諸国の監視と情勢調査のために幕府領を回る「御料(ごりょう)巡見使」と諸国大名の領地を視察する「諸国巡見使」がある。どちらも将軍の代理としての権限を持っていたのであるから、受ける側は大騒ぎだっただろうと容易に想像できる。

 スマホで見つけた巡見街道は、三重県亀山市(東海道)から鈴鹿市、四日市市へと、国道306号線を縫うように北上し、岐阜県の関ヶ原(中山道)へと続く道で、昨年の春も天理から四日市への道中、亀山からこの道を通った。交通量が少なくて走りやすい上、お気に入りの景色を味わうことができるのだ。

 鈴鹿市に入る辺りで巡見街道から離れ、フラワロードを進むと、甲子園球場の土のような色をした畑が広がっている。ここの土は“黒墨土(こくぼくど)”という火山灰に由来する土壌で、さつきなどの植木やお茶が栽培されている。巨大な扇風機のようないくつもの「防霜(ぼうそう)ファン」が据えられた茶畑と道中の桜、遠くに鈴鹿の山々を望み、のどかで大好きな風景のひとつだ。

 一昨年の秋には、初めての孫娘誕生という嬉しい知らせを聞いた街道でもある。しかし、今、新型コロナウィルスの感染が拡大し、春景色などとても楽しむことのできない厳しくて苦しい状況に、私たちは直面している。

 緊急事態宣言が出され、様々な社会的活動や行事などにも自粛が求められている。このような時にこそ、お互いに助け合うことが必要だ。「密閉、密集、密着」を避け、自宅にいながら人のためにできることはないかと知恵を絞り、行動することも大切だ。

きっとまた、訪れる楽しい春を信じて。

R2 6月号 陽だまり語録 142

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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