聞くは一時、聞かぬは一生

 乗用車を譲っていただく話がまとまり、三重県まで車を受け取りに行った。新型コロナウィルスの感染拡大によって県境を越えての移動は自粛中であったが、車検の期限が迫っていたため「不要不急」ではなかったのだ。

▲現在もありがたく使わせていただいています。

 

 普通車の移転登録(名義変更)にはたくさんの書類がいる。譲渡証明書、印鑑証明書、委任状、車検証、車庫証明書、手数料納付書、自動車税申告書、申請書等々、これらを譲渡人(ゆずりわたしにん)と連絡を取りながら準備しなければならなかった。

 6月の中ごろ、必要書類が揃ったので岡山市にある陸運支局へと向かった。さて、支局へ着いたものの受付窓口がたくさんあり、手続きの仕方がさっぱり分からない。途方に暮れて、お腹が痛くなってきた。

 だが、「ここで怯(ひる)んではいけない。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と自分に言い聞かせ、テーブルで記入している代行業者らしき人、窓口にいるおねえさん、周辺にいる運輸支局職員らしき人など、片っ端から尋ねまわった。その甲斐があって、ナンバープレートを外して返納、シールや収入印紙も揃えて申請書類を受理してもらい、新車検証を受け取った。最後に税金の申告書を提出して、新しいナンバープレート受け取り、車に取り付けて係員に封印してもらったら移転登録完了である。

 やれやれと、ホッとしての帰り道、自宅近くの交差点に差し掛かった。対向車線は渋滞していた。その時、左手から赤信号を無視して車が交差点に侵入してきたのだ。慌てて急ブレーキをかけると、後続車に危うく追突されそうになった。

「おのれ」と、怒鳴りかけてやめた。高齢の男性がハンドルを握っていたのだ。恐らく彼は、自分が信号無視したことさえも気づいていなかったのだろう。そのまま、右折すると、素知らぬ顔をして渋滞の後尾にへばりついた。もし、事故になっていたら、これまでの努力がすべて水の泡、人身事故になっていたらもっと大変なことだった。

 心を低くして、よく聞いたからブレーキもよく利いたのかなあ…と、心を静めた。

 R2.9月号 陽だまり語録 145  

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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