反から友へ

「そういえば、そんなことがあったなあ」と、記憶が薄らいではいないだろうか。わずか数か月前、中国各地で起きていた暴動は、一見落ち着いているかのようだ。しかし、表面に水をかけただけの炭火のように、その奥深くには赤々とした反日の熾火を抱えているのかも知れない。

 ▲Vien.J.K  23歳 ちょっと盛ってますけど(笑)

 当時、テレビや新聞などのマスコミを通して嵐のような反日デモが毎日報道され、だれもが先行きの不安を覚えたものだ。特に、北京の大学に留学中の子を持つ親としては、少なからず不安であった。 

 そんな時、たくさんの方々が心配して下さり、大変ありがたく思ったが、広大な大学キャンパス内にある留学生寮にいる限りは、たくさんの友人に囲まれ、食事もおいしく、また政府の奨学金留学生でもあるので生活に何不自由なく安心だった。

 ただ、「せっかく中国にいるのに自由に出歩けないから、つまらない」と少し不満そうだったので、「こんな経験は、だれにでもはできないぞ。今しかできないことを見つけて、しっかり勉強しなさい」と伝えたが、デモに参加している人たちが、決して全ての中国人の意見を代表しているわけではなかった。たくさんの中国の友人たちからは、いたわりや同情の言葉をいただいていたそうだ。

 その頃、私はアメリカにいる知人に手紙を書いていて、ふと気付いたことがあった。いつもならボールペンで縦書きにするのだが、気分を変えて縦書きの便せんを横に向け、万年筆で書いていた。そのとき、「反日」と書こうとして書き誤り、横線が少し長くなったのである。すると反日と書いたつもりの文字が、なんと「友日」に見えるではないか。

 確かに生半可な甘い考えで現状を変えることなど不可能に近い。しかし、まず、私たち自身が身近なところから中国の友人を増やし、一人ひとりの誤解を解いていくことができれば、「反」から「友」に転ずることも不可能ではないと思うのだ。

 かつて、ある方が「大変の“変”という字を“切”に変えてごらんなさい」と教えてくださった。まさにこの「大変」な時こそ「大切」な時なのである。

H25.1月号 陽だまり語録 53

▲Vien.J.K  62歳 ヘルシンキにて(これは盛ってありません)

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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