我が家の人気料理メニューのひとつに“ポトフ”がある。コンソメスープにジャガイモや人参、玉ねぎ、肉、ソーセージなどと香草を加え、コトコトと煮込んだもので、洋風おでんとでも言おうか。もっともこのポトフのふるさとフランスでは、スープと具材を分けていただくそうなので、少し趣(おもむき)が変わるのかもしれないが、山形県の“ひっぱりうどん”のキャッチコピーを拝借すると「湯気の向こうに笑顔が見える」ーーーまさに寒い季節にぴったりの料理である。
さて、先日久しぶりにポトフを食べながら、ふと「地中海風なら当たり前だ。瀬戸内海風ポトフがあったら面白いな」と思った。自分でもいろいろと考えたが、友人達にも尋ねた。すると、たこ、牡蠣(かき)、サワラ、ちりめんジャコ、などなどいろんな具材を提案してくれた。しかし、これこそが瀬戸内海風というインパクトに欠ける。何かいいアイデアはないかなと思いつつ、冬だというのに暖かいある日の午後、我が家の窓から海を眺めていた時、この間のポトフにはセロリが入っていたことを思い出した。セロリなんかと思われるかもしれないが、これがとても風味豊かでおいしかったのである。実は私は子どものころ、セロリや蕗(ふき)のような香りの強い野菜が嫌いだった。だからちらし寿司なんかに蕗が入っていると、まず先に食べておき、それから安心して味わったものだった。ところが最近は、この旬の野菜類がとてもおいしく感じられるようになってきた。家人に話を聞くと歳のせいだけではなく、調理法にコツがあるとのこと。それも、そんなに大それた秘訣ではない。水によくさらして“えぐみ”を抜くことが大切なそうで、なるほどなと感心した。
ときどき人間関係においても、個性が強過ぎて集団に馴染みにくい人がいる。でも教えの理に浴してあくを抜き、誠の心であたたかく接していけば、一段と輝きを増す人材になれるのかもしれないのだ。瀬戸内海風ポトフは、特別な具材で調理するのではない。心と身体があったまる、暖かい春の海のような笑顔を添えればいいのである。今夜もポトフに、してもらおうかな。
H26.5月号 陽だまり語録 69
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