5月の末、右足親指の深爪をしてしまった。化膿して靴を履くのもクツウだったが、放っておいても治らない。しかも、肉芽(にくが)とかいうものができてしまい、ジュクジュクするし、不注意に何か物に当たると飛び上がるくらい痛かった。6月の中頃には、永年かけてやっとその気になって下さった方とおぢばへ帰る予定だったし、いつまでも靴が履けなくては困るので、勇気を出して病院へ行った。
ずいぶん待たされたが、若くて可愛い女医さんが「ちょっと痛いですよ~」とか言いながら。“ちょっと”どころではない荒療治をしてくれた。液体窒素で患部を焼いた後、 爪と指の間に綿を詰めるのである。余りの痛さに手を握りしめてこらえていると、「やっぱりやめときましょう」と中止してくれた。それから一週間後、2回目の治療に行った。先週の美人女医がいると期待していたら、いつもの中年医師だった。帰ろうかなと思ったが、前日毛虫にやられ痒くてたまらず、その治療もして欲しかったので辛抱した。 彼はいつもの馴れ馴れしい口調で、「綿、詰めようか?」と言った。
「はあ」と答えると医師はニヤリとし、「これから、鬼のようなことするよ」と、傍らで治療を見学する研修医らしき女性に伝えた。私はギョッとして身構えた。足の親指はまだ触れると「ウーッと」唸るくらい痛かった。そこに、これでもかというくらい何度も綿を押し込むのだ。可愛い看護師がそばで「頑張って下さい」と励ましてくれたが、痛さは変わらない。私は歯を食い縛り両掌をグーにして必死に耐えた。
美人女医の治療と鬼の治療ーー選べるものならば、 前者が良いに決まっている。ところが、傷の治りは遙かに鬼の方が早かったのである。
古来、鬼は凄まじい力を持つ冷酷非情なものとして恐れられてきた。姿形の見えないこと:隠(おぬ)を語源とする 説もあり、暗闇に潜む“物の怪:もののけ”を表したものとも考えられている。しかし、「鬼コーチ」とか「心を鬼にして」のように 情よりも理性を重んじる場合に用いられることもあるのだ。最近、どうもこのプラスの鬼が減り、暴力的で陰湿な鬼が増えているような気がしてならない。
H27.10月号 陽だまり語録 86
0コメント