鬼のようなこと(2)

 昨年の夏は、ほとんどサンダルを履いて外出した。よそのお宅を訪問するときや仕事に差し支えがある場合、靴を用意しておき、直前に履き替えた。靴が嫌いだったわけではないし、#KuToo(ハッシュタグ クートゥー)という社会運動に賛同した活動でもなかった。左足親指の巻き爪が悪化して、靴を履くと苦痛で耐えられなかったからだ。

「#KuToo」は2019年のユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた造語で、女性が職場でハイヒールなどを強要されることに抗議する社会運動である。女性が性的嫌がらせなどの被害体験をSNSで告白する「#MeToo運動」があり、それをもじって「靴」と「苦痛」を掛け合わせたものである。筆者は5年前にも同じような症状になり「靴を履くのがクツーだ」と書いたことがある。その時はオッサン医師が「これから鬼のようなことするよ」と宣言して行った治療によって完治したのであった。まあ私の場合、サンダルを選択できる自由な立場にあるし、両手を“グー”にして荒療治に耐えれば治るのでそんなに大したことではない。しかし、パンプスなどによる足の痛みに耐えながら仕事をしなければならない女性たちにとって、靴を選択する自由はあっても良いと思う。さて、巻き爪は秋になってますます悪化した。仕方なく病院に行く決心をした。「あ~あまた鬼のようなことをされるのか」等と、昼食時に泣き言を並べていると家人が「最近、皮膚科は美人の先生に代わったよ」と大変嬉しい情報を提供してくれた。それで安心、喜んで病院に行ったのであるが、新しい先生は確かに美人なのだが治療は鬼なのであった。しかも前回よりも重症化していたので何度も通院し荒療治を受けなければならなかった。お陰で寒い季節が来る前に靴が履けるようになったのである。本当に相手を思いやるとき、大切なことは何かと真剣に考え、たとえそれが一時は相手にとってむごい行いであったとしても結果的に救われることが多々あるものだ。“むごいことばをだしたるも はやくたすけをいそぐから”「みかぐらうた」の一首が心に浮かんだ。

R2.3月号陽だまり語録 139

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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