サルが出た。中型の犬くらいの大きさで、私たちを見てすぐに逃げて行った。昨年からサルの噂は耳にしていたが、本当にいたのだ。近所の小学校でも対策を取り、今のところ大きな被害は出ていないようである。私も還暦に近い年齢になってきたが、自宅のすぐそばでサルを見たのは生まれて初めてである。
まあ、裏山には“ケンケン”と名付けているキジを放し飼いにしているし、ご近所では犬も飼っている。またこの辺りは桃の生産地でもあり、おじいちゃん、おばあちゃんもたっぷりと住んでおられる。「あとは桃太郎だけじゃ」とキッズひのきしんクラブで言ったら、こどもたちから「鬼がいない」と指摘された。そこで思い出したのが温羅(うら)伝説である。
温羅とは紀元前1世紀ごろ吉備国(現在の岡山県とその周辺地域)に鬼ノ城(きのじよう)と呼ばれる堅固な居城を構えていた鬼神で、悪行を働き近隣の住民を震え上がらせていた。時の朝廷はこれを大いに憂い、武勇の誉れ高い皇子(みこ)・ヒコイサセリヒコノミコトを征伐に派遣した。その故事が桃太郎伝説へと変わっていったというのだが、鬼ノ城跡がだんだんと発掘されて研究が進むにつれ、別の説が注目されている。
即ち、温羅は鬼ではなく、仁政を行った名君であったかも知れないのだ。まあ、その辺のことは研究者に任せるとして、桃太郎が鬼の征伐に出かける時、「仁、勇、知」をそれぞれに象徴する「犬、雉、猿」に与えたのが有名な「吉備団子」である。したがって岡山土産に吉備団子があるのは当然である。ところが、北海道にも桃太郎の絵柄がついた“きびだんご”が存在しているのだ。ただ、団子とはいってもオブラートで包まれたソフトキャンディ風の食べ物で、岡山のそれとは大いに異なっている。一度は食べてみたいものだと思う。
それにしても“きびだんご”が北海道にもあるし、鬼は名君だったかもしれない。「桃太郎とは、一体何者なのだ?」と思案していたそのとき、申年(さるどし)生まれの私は閃(ひらめ)いた。
「桃太郎とは、心に巣くう邪悪な鬼を退治する正義の心なのだ」
うーむ、これこそまさにサル知恵か。
H26,8月号 陽だまり語録 72
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