恐竜の島

 九州の八代海に浮かぶ、小さな島ーーー熊本県天草市の離島・御所浦島(ごしょうらじま)。そこへ渡るカーフェリーの修理が終わり、運航が再開したのは、4月の中ごろだった。古生物を研究する倅が、4月の初めから島で勤務を始めていたのだが、その荷物がやっと運べる。急きょ1トン積のワゴン車をレンタルして、岡山から天草へと出発した。


 九州縦貫自動車道を走り、熊本までは順調に南下した。ところが、降り口は地図上ではもっと先のはずなのに、カーナビの指示通りのインターで降りたら、熊本市内の中心地に案内され、大渋滞に巻き込まれてしまったのだ。時間に余裕を持って出発していたので焦りはしなかったが、島へ渡るフェリーに乗船するころには、不気味な雲がじわじわと空を覆い始めていた。自称「恵みの雨男」の行くところには、やはり雨が似合うのか。島に到着したころには、小雨がぱらついてきた。

 倅は住んでいても、私たちには全く初めての土地だった。カーナビは信用ならないし、引っ越す家までの入口道路は、軽トラックくらいしか入れないという。大量の荷物をどうやって運ぼうかと思案に暮れた。しかし、とにかく海岸線を走り、目指す集落に着いた。

 すると、バス停のベンチに地元風の方々が腰掛けて一杯呑んでいた。空き地に車を止め、倅がオジサンたちの元へご挨拶に伺うと、「うちの軽トラを使うたらヨカ」と、初対面の私たちに願ってもない言葉を掛けてくださったのである。お陰で本格的な雨になる前に荷物を運び込むことができ、本当にありがたかった。その上、翌日の「花見会」にも招待してくださったのである。たくさん並んだ新鮮な海の幸や手作りのご馳走と美味しいお酒をいただきながら、改めてお礼を言うと、「気持ちよく挨拶をしてくれたから」という答えが、笑顔と共に返ってきた。

 御所浦島は「恐竜の島」とも呼ばれる。豊富で多彩な化石が、島のあちこちで発掘される、自然豊かなところなのである。長距離の引っ越しでくたくたになったが、人情味溢れる「恐竜の島」の人たちのお陰で、心が温かくなった。御所浦島が大好きになった。


H27.7月号 陽だまり語録 83

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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