最近、東南アジアの食べ物の人気が高くなり、パクチーブームが起きている。
「パクチスト」(パクチーを好んで食べる人)という言葉まで生まれた。中国セロリとか香菜(シャンツァイ)とも呼ばれるこの野菜は、独特の強い香りを持ち、人によって好き嫌いがはっきりと分かれる。
以前、初めて台湾を訪れたとき、台北のコンビニで漢方薬のような強烈な匂いに圧倒された。それ以来、あの香りに敏感になってしまい、香菜の入った食べ物が苦手になった。ところが、我が家ではとても人気のある「青じそ」が台湾の知人には苦手なのだから、嗜好(しこう)というものは面白いものである。
さて、私の筆名はエスニックで、郷里の岡山は国内有数のパクチー生産地である。それなのに、いつまでも苦手にしていたのでは申しわけないと思っていたら、近所のスーパーでパクチー風味のベトナムフォー・カップ麺を見つけた。勇気を出してこれを食べたところ、さっぱりとしたチキンスープで、ガーリックの香りとパクチーの爽やかな風味が、モチモチとしたライスヌードル「フォー」にマッチしてとてもうまかった。だからと言って大量のパクチーをのせて食べようとは思わない。本場タイでもパクチーのサラダや大盛りはあまり食べないと、現地の大学生が新聞に投稿していた。
英語名「コリアンダー」からパクチーの和名を「カメムシ草」と呼ぶ人たちがいるが、これは明らかな誤解である。パクチーは、鎖国前に既に中国から日本に渡来しており、その後ポルトガル人が伝えた「コエンドロ」が正しい和名である。コリアンダーは古代ギリシャ語koris(カメムシ)、annon(強い香りを持つ香辛料)を語源とし、パクチーの種子を乾燥させたスパイスでありパクチーそのものではない。コリアンダーはカレーやエスニック料理には欠かせないスパイスの一つで、思わずあの香りに魅かれる方も多いと思う。
香りの強いものは時に鼻について辟易(へきえき)してしまうことがある。しかし用い方によっては素晴らしい芳香となり、多くの人を魅了する。人間もさもありなん、だろうか。カメムシの誘惑は手強い。
H30.5月号 陽だまり語録 117
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