スノータイヤ

「人間万事塞翁(さいおう)が馬だよ」ーーー何かに失敗して落ち込んでいるときよく使われる言葉である。「塞翁が馬」とは、中国の古書「淮南子(えなんじ)」の中にある話で、中国北方の塞(とりで)に住んでいた老人の物語を元にした故事成語だ。

「世の中にはいろんな幸不幸があるが、吉凶は変転するものだから、目先だけの禍福(かふく)を嘆いたり喜んだりしてはいけないよ」という教えである。

 先日スノータイヤを購入するときこの教えを実感した。新しいタイヤに交換するには古いタイヤの処分料が要る。ところがラッキーなことに交換する日がリサイクル品の無料回収日だった。これで処分料がタダになると喜んでいた。だが、よく見えるところに出しておいたのに、なぜか見逃されて回収されずがっかりした。タイヤは古いが、アルミホイールがまだ美しく人気のブランドである。ホイールだけでも使ってくれる人がいれば差し上げようと、タイヤのサイズを記して写真をインターネット上に掲示した。すると友人たちが貴重なアドバイスをしてくれた。


「タイヤは車の最も大切な部品の一つである。一本のタイヤは、僅(わず)かハガキ一枚分の接地面積で乗る人の命を支えている。いくら見かけが良くても製造年を確かめないとダメ。また表に書いてあることだけで判断してはいけない。ホイールの裏、即ち見えないところに重要な情報が書き込んであるのだ」と。

 うーむ、これでは迂闊(うかつ)にあげることはできないなとあきらめていたら、他の友人が中古タイヤの買取り店を教えてくれた。後日、市内にある車の中古部品店に持ち込むと処分料を超える値段で売れた。つまり支出(-)が無料(0)になり収入(+)に転じたのである。ちょっと儲けた気分で嬉しかった。しかし、本当に良かったのは、タイヤのような足元の部分の大切さを学び、寒さ厳しい冬の道でも滑ることなく安全に運転できる安心感を得たことである。えっ、聴衆を凍らせ、つるつると良く滑る私の話にも「スノータイヤを装着した方がいいんじゃないか」だって? 参ったなあ…。

H31.3月号 陽だまり語録 127

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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