♪ほ~た~るのひか~り 窓のゆ~き~♪
NHKの紅白歌合戦は大抵この歌の大合唱で締めくくられる。その余韻が消えないうちに、ゴオ~~~ンと除夜の鐘が鳴り、静かなお寺の境内に画面が切り変わる。この連載も108回目になった。除夜の鐘と同じ数だし、タイトルから連想して「ついに終わりか?」と早合点された方がいたかもしれない。
しかし、蛍の光は決してサヨナラを意味するだけの歌ではないのだ。この歌の原曲はスコットランドの民謡「オールド・ラング・サイン」である。日本では卒業式の定番ソングとして広まっているが、スコットランドでは披露宴や誕生日に歌われたり、アメリカではこの歌を合唱して新年を迎えるというめでたい歌でもあるのだ。
さて、我が家から歩いて5分ほどの所にビオトープがある。毎年5月の下旬から6月の初旬に掛けて、そこで蛍の観賞ができる。今年はタイミング良く広州から長女が一時帰国していたので、おばあちゃんのお伴として出かけた。季節的には少し早く数匹しか発見できなかったが、その帰路、まるで道案内のように一匹の蛍がずっと先導してくれたそうである。
2人が止まると蛍も止まり、動くと動く。なんとも不思議であるが、去年も長男が同伴して出かけたときに同じような経験をしたというのである。「ひょっとしたら、おじいちゃんだったのかもなあ?」と、40年ほど前、ちょうど同じ頃に亡くなった私の父を懐古(かいこ)して、母は孫達に嬉しそうに話かけていたが、本当は孫が蛍を見に連れて行ってくれたことの方がもっと嬉しかったのだと思う。
その翌日、今度は私が息子や娘と蛍観賞に出かけた。シ~ンとしたワンパク広場にある小さな人工池のそばで待っていると、数匹の蛍が薄闇に光を点滅させ始めた。そのうちの数匹が飛びちがい、束の間の風流を味わっていた。
そのとき、何かが私の脚の辺りで点滅していることに気づいた。これはきっと父が来てくれたに違いないと喜んでよく見ると、スマホの着信ランプがジャージズボンのポケットの中で点滅していた。父がどこかで笑ったような気がした。
H29.8月号 陽だまり語録 108
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