昨年の秋、『安芸の小京都』竹原市を訪れた。竹原は江戸時代から製塩や酒造業で栄えた町で、しっとりとして落ち着きのある町並みが保存されている。その近くに「道の駅」があり、駐車場の隣に立派な教会が見えた。
付属建物の二階窓付近には「感謝 慎み たすけあい」の横断幕がに掲げられてあり、素晴らしい神殿だったので参拝させていただきたかったが、敷地の外から手を合わせるだけに止め、情緒溢れる町並みを散策することにした。
「棒瓦の屋根と塗りごめ壁、ふかい飴色の格子窓小路を歩けば、ゆかしい歴史の息づかい」と、竹原市観光協会ホームページに記されているが、石畳の道に足を一歩踏み入れると、どこからともなく三味線の調べが聞こえてきた。
その音に誘われて由緒ありそうなお屋敷に上がり込み、古い階段を上っていくと大きな梁(はり)がむき出しになった広間があり、たくさんの座椅子が並べられていた。ちょうど演奏会の開園直前で、鎌倉からの団体客を津軽三味線でお迎えするという粋な演出をしているところだった。
私達は古い町並みの見学を楽しみ、市内で広報関係の研修会に参加した後、フェリーボートで竹原の向かいにある大崎上島に渡った。人口約8千人、瀬戸内海に浮かぶのどかな島である。ここは2013年に公開された山田洋次監督「東京家族」のロケ地になったところで、撮影に使われた家などもそのまま残っている。「出演者やスタッフがうちのホテルに滞在したんですよ」と、港まで私達を迎えに来てくれたマイクロバスの運転手は、ちょっと誇らしげに話してくれた。
きのえ温泉のホテルに着き、やや塩辛い湯の露天風呂に浸かりながら、瀬戸の海を行き交う多くの船やしまなみ海道の来島(くるしま)海峡大橋を眺めた。その夜、アワビなど豊かな海の幸を味わい、豊潤で香り高い酒をいただき心地よく休んだ。
明け方、トランプに興じる夢を見た。あと一枚だけになり油断していたら「ババ」を引いてしまい、掴(つか)みかけていた勝利が掌(てのひら)からヒラリと落ちてしまったのである。「幻」かあ……前夜に飲んだ竹原の地酒は味わい深く美味かった。思えば、アメリカ大統領選挙の一週間前だった。
H29.1月号 陽だまり語録 101
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