一昨年の春、信者のKさんから“たらの芽”をいただいた。「てんぷらやあえ物にたら美味しんですよ」と、彼女はニコニコしてたらの芽の入ったナイロン袋を渡してくださったが、私の知っているたらの芽とはどうも違う。
たらの芽というよりはむしろモロヘイヤにそっくりなのである。しかし、せっかくのご厚意に「違うでしょう」とも言えず、家に持ち帰りインターネットで検索したら、なるほど間違いなくたらの芽であった。
ただ、私の乏しい知識で知っていたのは “たらの木の頂芽(ちょうが)”であり、Kさんからいただいたものは“脇芽”だったのである。さらに私は“芽(め)”を“が”と読み間違えてしまい「そうか、脇芽(わきが)かあ…。香りは高そうだが、美味しくなさそうな名前だなあ」と一人つぶやいた。
まさにバカ丸出しであったが、家人に料理してもらったたらの芽は、“頂芽”には劣るものの香り高く春の味がした。その“たらの芽”を下さったKさんが、間もなく血液のガンに侵された。
日ごろから元気で働き者で、みんなから好かれ教会の上にも尽くして下さる方の重病はとてもショックだった。だが、それから約9ヵ月、彼女の素直な心と真剣な祈りに神様がお働きくださり、医師の適切な治療によって吐き気などの副作用もほとんどなく、驚くほどに回復した。「おかげで元気になりました。あとはこれだけ」と、退院したKさんは笑いながら帽子をとられた。薬の副作用によって抜けてしまった頭髪もかなり復活しつつあり、全快を共々に喜んだ。
ところが、それから僅か数カ月後の夏、突然の脳内出血によってKさんは帰らぬ人となってしまった。「どうして?十月の教会の大祭には参拝できると、あんなに楽しみにしていたじゃないですか」とKさんのご遺体に語りかけると、涙が込み上げてきた。
あれから初めての春、スーパーの野菜売り場に並んだたらの芽を買い求め、さっと茹(ゆ)でてかたい部分を取り除き、醤油をたらして食べてみた。アスパラガスのような歯ごたえとほのかな苦(にが)み……目を閉じて味わっていると、Kさんの明るい笑顔と陽気な声がふと浮かび、また淋しくなってきた。
H22.5月号 陽だまり語録 21
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