秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる(古今和歌集)
立秋のころ、藤原敏行によって詠まれたとされている有名な歌である。しかし、秋とは名ばかりでうだるような暑さの日々が続いていたころ、学習サポートをしている生徒のお宅を訪問した。すると私の友人でもある彼のお父さんが、なんだか浮かぬ顔をしている。
事情を尋ねると、会社の健康診断で要精密検査の通知を受け、内視鏡検査と細胞診の検査結果を待っているところだという。
自分にも過去に同じような経験があり、あれはつくづくと嫌なもんだったと思い返した。最近の医学の発達で早期発見・早期治療が可能になり、癌もかつてのような恐ろしい病気ではなくなりつつある。
しかし、いざ自分がその当事者になると「手術はいつごろだろうか、家族や仕事はどうなるのか」と心配したり、「来年の桜をもう見ることが出来ないかもしれない」などと、悲観的なことばかりを考えるのである。
数日後、お宅を訪問すると、ご家族から検査の結果が「レベル5」であると打ち明けられた。何事においてもレベルが高いのは嬉しいものだが、レベルが高いことが好ましくない場合もある。5段階のクラスに分類される細胞診の「レベル5」とは、明らかな悪性細胞、進行した癌が疑われることを意味している。月末に病院で医師と相談するが、恐らく9月に入院して手術を受けることになるだろうということだった。
私はその月末から1ヶ月間天理に滞在する予定になっていた。おぢばでは、毎朝夕、教会本部神殿に参拝して神様に真剣にお願いをした。やがて9月に入り、心配だった本人の容態や手術日のことなどを訊くと、「再検査をしたら、癌細胞が出てこないんです。今はまだグレーの状態ですけど、今後はピロリ菌の除菌をしてもらう予定です」と、驚くべき結果を聞かせてくれた。
「病気とは目にはさやかに見えねども 検査結果にぞおどろかれぬる」では困るけど、こんな嬉しい驚きならば、何度あってもいいものだ。
H.27.11月号 陽だまり語録 87
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