「香港へ日帰りで行った」と言うと、ほとんどの方が「えっ」という表情をされる。「広州から電車でね」と付け加えると納得されるが、結構ハードな弾丸ツアーである。
広州から香港へは、高速鉄道なら約2時間、バスなら4時間くらいで行ける。それならぜひ高鉄でと願っていたら、春節中にもかかわらず「高鉄の座席が取れた」と長女から吉報が届いた。
中国高鉄車両の愛称「和諧号」は、広州東駅と香港の紅磡駅(ホンハム駅)を結ぶ時には国際特急列車になり、セキュリティー検査と出国審査を受けなければ乗車できない。車両内は明るく清潔で、天井からテレビモニターが吊るされている。車窓に広がる景色も素晴らしいはずだと期待していたら、少しがっかりした。
列車が広州市から離れるに従って風景がくすんでゆくように見えるのだ。沿線には古いモルタルのアパートと農閑期の田畑が広がるばかりで瀟洒(しょうしゃ)な住宅等はほとんど見られない。やはり都市重視型経済政策の影響なのだろうと勝手に想像した。
いくつかの都市を通過し香港に入ると、娘の言う通り郊外なのにどこか雰囲気が違う。その違いが判らぬままホンハム駅に到着した。そこで香港の入国審査を済ませ、地下鉄に乗り替えて地上に出た途端、眼の前にいきなり国際パワフル巨大都市香港が現れた。
国際色豊かな人、人、人の波、高層ビルをつなぐ通路では段ボールに雑貨を入れた店を勝手に開いて大混雑、別の通路や広場では外国から出稼ぎに来ている何百人もの女性たちが仲良しの小グループを作り、持ち寄った料理を楽しんでいる。強い心と助け合う気持ちがなければ、ここでは生きていけないよと教えてくれているようだった。
昼遅く、偶然入ったレストランの店内では数十人が順番を待っていた。出ようかと思ったが辛抱した甲斐があり絶品の広東料理を味わった。その晩、広州に戻りガイドブックを見て驚いた。「鏞記:ヨンキー」というその店は香港でも指折りの名店だったのだ。しかも日本風に読めば「ようき」なのである。偶然にしては出来すぎていた。
H29.4月号 陽だまり語録 104
※このエッセイを連載している雑誌名が「陽気(ようき)」なのである。
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