独楽

 今年も正月がやってきた。子供のころはコマ回し、凧(たこ)揚げ、ハサミ将棋やスゴロクやカルタ等、近所の仲間たちとよく遊んだものだった。特にコマは技を競い合うのではなく、鬼ごっこの道具だった。

 鋳鉄製のコマを投げ上げ、掌にのせたフタで受けて持って走る。コマが回っている間だけ鬼から逃げられるのだ。鬼も同じ条件で追いかけるのでコマが良く回転するように工夫した。たとえばコマに付着した鉄のガリガリを削ったり、芯棒の先をコンクリートでとがらせたり、適度な大きさの滑りの良い受け皿を研究したりした。この受け皿で最適だったのは、「ももの花」ハンドクリームの蓋(ふた)だった。手に塗るとテカテカに輝くこのハンドクリームはお徳用で、なかなかビンが空にならず貴重なアイテムだった。つまり、コマは独りで遊ぶツールではなく体力を要する遊びだったのだ。

 うーむ、あの頃は運動をしても筋肉痛になるだけだったが、年をとると腰が二つになるなあ…「腰(よう)ツウだ」とか、くだらないことを考えながら漢字の由来を調べた。 

 コマは「独楽」と漢字で表す。コマに対してこの字がすぐに連想できるようになったのは大学生のころだった。当時、井上陽水の「二色の独楽」というLPレコードが発売され、独楽という字がとても印象的だった。独楽は海老などと同じように、単語に漢字のイメージを当てはめただけである。しかし自分の中では「独り楽しむ」というイメージはない。そこでネットを検索すると「全日本こま技選手権大会」があった。手乗せ等の初歩的な技から驚嘆する高度な曲芸に至るまで様々な技を競い合う大会である。独りで楽しむことが技の習得に繋がり、難しい技を身に付ければそれだけ賞賛を得られるのだ。

 独楽で重要なことは、芯がしっかりしていてバランスが良いことである。自分中心に世の中が回っているわけではないが、もし自分の周りに不平や不満の種が多く見えてなかなか心が前向きになれないのだったら、自分自身がぶれていないか確認してみよう。原因は、相手だけにあるのではないかもしれないのだから。

H30.1月号 陽だまり語録 113

▲春節・広州ガーデンホテルで飲茶 「獅子舞」 

陽だまり語録

あってもなくてもいいけど、あったらいいな、という食後のお茶かコーヒーみたいなエッセイです。「陽気」誌連載(2008.9~2020.12) ペンネーム: ビエン.J.K

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